こんにちは、みちょるびんです。
「日本の誕生石」が63年ぶりに改定されました。宝石鑑別のディプロマを持つみちょるびんが、「誕生石」として選ばれた‘栄えある宝石’たちについて、独断と偏見を交えながらご紹介したいと思います!
「ガーネット(1&2)」「クリソベリル」「アメシスト」「アクアマリン」「モルガナイト」「サンゴ」「ブラッドストーン」「サードニクス」「ダイアモンド(1&2)」「タンザナイト」「アイオライト」「エメラルド」(「日本の国石」)「ヒスイ」「真珠」「ムーンストーン」「アレキサンドライト」「ルビー」「スフェーン」に続く、第21弾!!
スピネル
今回の主役「スピネル」は、花形スター「ルビー」や「サファイア」の陰に隠れるという不運な運命を背負いながらも、その可憐な美しさ故に、王子様に見初められて幸せになったシンデレラのような、そんなドラマティック・ストーリーを持つ宝石です!
昔は、とにかく、赤い透明石はルビー、青い透明石はサファイアと考えられていました。
スピネルも誤られた宝石の1つ。
そもそも、混乱の原因は、スピネルの産出場所にあります。
スピネルは、ルビーやサファイアの鉱物種「コランダム」と同じところから採集されているのです。
そのためスピネルは、長い間、コランダムと混同されてきました。
しかし1783年、科学の進歩のおかげで、ようやくスピネルの存在が明らかとなり、スピネルが日の目を見ることになったのでした。
おそらく、一番有名なのは、エリザベス英女王の「帝国王冠」ではないでしょうか。
イギリス議会開会式で女王が着用されるこの帝国王冠は、2868個のダイヤモンド、17個のサファイア、11個のエメラルド、5個のルビー、273個の真珠で装飾され、まさに豪華絢爛。
ロンドンの観光名所の一つである「ロンドン塔」の目玉の一つとして、公開されています。
この王冠には、歴史ある有名な宝石もいくつか使われており、例えば、研磨当時、世界で2番目に大きいとされていたダイアモンド(カリナンⅡ、317.40カラット)が王冠の正面を飾っています。
そして、その頭上には、「黒太子ルビー」がその存在感を示しています。
この「黒太子ルビー」は、多くの戦いを勝利に導き、敵国にノワール(黒)と称されて恐れられたエドワード三世の長男、エドワード皇太子にちなんで命名されたもので、170カラットもあります。
この黒太子がこの石を手に入れたのは、14世紀に反逆にあったスペインのカスティーリャ王を助けた功績によるものという言い伝えがあるようですが、実のところ、1685年より以前についての立証はされていないそうです。
しかし、この石はおそらく1684年よりもずっと前に流通していたもので、1649年に「ジュエル・ハウス」(ロンドン塔のにある英国王冠の宝石を収容する金庫室)から一度売りに出された可能性があることが考えられています。
販売された石の1つには、「バラス・ルビー」と書かれた紙に包まれていたものがあったとの記録が残っているそうです。
そして王政復古後に、この石は、再び英国王室に戻ってきたとのことです。
大英帝国の王冠を飾るという、誉あるお役目を授かった、選ばれし宝石「黒太子ルビー」。
その正体こそが、何を隠そう、レッド・スピネルだったのです―――!
他にも、この手の勘違いは多くあり、イギリス王家で代々受け継がれてきた352カラットの「チムール・ルビー」、15世紀のフランスはブルターニュ公フランソワ2世妃マルグリットが所有していたドラゴンシェイプの「コート・ド・ブルターニュ」などが挙げられます☆
このように、スピネルは、最も素晴らしい宝石の一つとしての歴史を持っていますが、相対的に見て、消費者にはあまり知られていません。
なぜなら、供給量が少なく、市場の主流を形成できないという事情があるからです。
本来スピネルは、コランダムよりも希少性がずっと高く、色のバリエーションも豊富、硬度(摩擦や引っかきに対する強度)も8で耐久性にも申し分ないという、恵まれた‘素質’を持っている宝石であるというのに、大変残念なことです。
さて、「スピネル」の名前の由来は、‘とげ’を意味するラテン語のSpinaが起源であろうと言われています。
和名の「尖晶石」はここからきているようです。
また‘スパーク’(閃光)の意味のギリシャ語から由来したとも考えられています。
スピネルは、ダイヤモンドのような完全な八面体結晶(二つのピラミッドが背中合わせした形)で生じることが多く、結晶面がきれいで、光沢のある8面体のものは、人為的なカットを施すことなく「エンジェル・カット」と呼ばれ、珍重されています。
ガーネット同様、スピネルにも稀に4条や6条のスターと変色効果を示す変種があります。
しかし、これらの石は、コレクター向けに限定されたものです。
ルビー赤は「ルビー・スピネル」、ピンク色は「バラス・ルビー」、橙黄色は「ルビセル」、帯紫赤色は「アルマンディン・スピネル」などと呼ばれていたこともあったそうですが、現在は、「レッド・スピネル」の例のように、頭に色名をつけて呼ぶのが通例となっています。
その他淡青、濃青、紫青、赤紫、紫色、濃緑色、黒色などがありますが、黄色は天然石にはない色だと言われています。
天然スピネルは、市場ではなかなかお目にかかれませんが、実は、合成スピネルは、身近なところでたくさん使われています。
合成石とは、天然石と「化学組織」「結晶構造」が同じで、人工的に作られたもののことを言います。
合成スピネルは、20世紀初頭に、合成サファイアの製法を研究している中で、偶然にできたものです。
それ以来、合成スピネルは、サファイア、ジルコン、アクアマリン、ペリドット、その他の天然宝石の「代替品」として、例えば、「誕生石ジュエリー」や「カレッジリング」(高校、大学の卒業時に作られる記念リング)などに多く用いられてきました。
最後に。
みちょるびんは、スピネルの隠れファン。
これまた、個人的に欲しい石の一つです。
ルビーには見かけない、イチゴのようなかわいい赤に、グッとキテます。
ショッキングピンクなんかもイカす・・・。
いや、本当は、みちょるびんの一押し宝石だったりもする「スピネル」。
だってぇ、他の人に先越されるのは、ジェローザなんですもん!
スピネルは、内緒にしておきたい、‘とっておき’の石なのです!!
以上、みちょるびんでした!
【参考文献】
「宝石 その美と科学」(1972年、近山晶著)
「The Crown Jewels 」(2012年、Anna Keay)