こんにちは、みちょるびんです。
「日本の誕生石」が63年ぶりに改定されました。宝石鑑別のディプロマを持つみちょるびんが、「誕生石」として選ばれた‘栄えある宝石’たちについて、独断と偏見を交えながらご紹介したいと思います!
「ガーネット(1&2)」「クリソベリル」「アメシスト」「アクアマリン」「モルガナイト」「サンゴ」「ブラッドストーン」「サードニクス」「ダイアモンド(1&2)」「タンザナイト」「アイオライト」「エメラルド」(「日本の国石」)「ヒスイ」「真珠」「ムーンストーン」「アレキサンドライト」「ルビー」「スフェーン」「スピネル」「ペリドット」「サファイア」「クンツァイト」「トルマリン」「オパール」「トパーズ&シトリン」「ジルコン」「トルコ石」に続く、第30弾。いよいよ最後の誕生石です!!
ラピス・ラズリ
「ラピス・ラズリ」は、人類に認知され、利用された鉱物としておそらく最古のものの一つであると言われています。
ペルシャ語の‘Lazhward’あるいはラテン語の「青色」を意味する‘Lazur’がこの石名の起源で、‘Lapis’は、ラテン語で「石」を意味しています。
和名は「青金石」ですが、「瑠璃」とも呼ばれ、瑠璃色、群青色は、ラピス・ラズリの色を指しています。
ラピス・ラズリの最大の魅力は、石の名前にもなっているその青い色彩にあり、太古から現在に至るまで、宝飾品として、顔料として人々を魅了してきました。
我が国では七宝の1つに数えられ、同じ重さの黄金を引き換えられるほどに貴重だったそうです。
このラピス・ラズリ、実は、複数の鉱物から成る集合体であり、他の宝石のように、‘鉱物名’を指すものではありません。
そこが、ラピス・ラズリの、他の宝石とは異なる特殊な点です。
ラピス・ラズリにその美しい青色を与える「アウイン」と「ソーダライト」、そして「黝方石」(ゆうほうせき/ノーズライト)と「ラズライト」が、ラピス・ラズリを構成する主な鉱物です。
その他、ラピス・ラズリに黄金の輝きをちりばめる「パイライト」、白い筋を与える「カルサイト」が含まれます。
そんなこともあり、ラピス・ラズリは、全体として均一な色をしていません。
1つ1つが、個性豊かな表情を織りなすことになり、それもきっと、たくさんの人を惹きつける大きな魅力となっているのだと思います。
人間に本質的に備わった信仰心によって、宝石は古くから、そしてごく自然に崇拝の目的用いられるようになり、最も価値のある見事な宝石が神聖な目的のために選ばれてきた。このような考え方の顕著な例として、出エジプト記に書かれた大祭司の胸当てや、荒れ野でイスラエルの民が移動式神殿に捧げた宝石類がある。価値ある宝石を信仰に結び付けたもう1つの例としては、預言者エゼキエルの幻視やヨハネの黙示録の中の新エルサレムの描写で、神の栄光の象徴として宝石が使われている。
「宝石と鉱物の文化誌」(ジョージ・F・クンツ著、2011年、鏡リュウジ監訳)
ヨーロッパでは古くから、‘その月にふさわしいと決められた12石を、月替わりで身に着ける’という習慣があったそうです。
しかし、さすがに12種類の宝石をそろえるのは経済的に困難だということもあり、次第に‘誕生月の宝石’一択に絞られていった・・・という風に言われています。
この12石のルーツは、『旧約聖書』の『出エジプト記』に出てくる祭司の胸当てにはめ込まれた12種類の宝石という説や、『新約聖書』の『ヨハネの黙示録』にある神の都の神殿の土台に使われた12種類の宝石と言われています。
さて、米国では鉱物学者ジョージ・フレデリック・クンツが「誕生石」を整理し、1912年に、米国宝石商組合(現在のジュエラーズ・オブ・アメリカ)によって「誕生石」が広められました。
我が国の誕生石は、この米国版が基礎となっています。
はい、ここでもクンツ博士の登場です!
クンツ博士は、新しい宝石の発見に貢献したり、タンザナイト流行の火付け役になったり、米国の誕生石を作ったり・・・、本当に、いろんな場面で活躍されていたんですね!!
感服。
そのクンツ博士の著石の中で、「大祭司の胸当て」のことが述べられており、その中で、「sapphinus」と訳されている宝石は、私たちが知っているサファイアではないと言っています。
この石には、‘金色の斑点がある’という目撃情報が寄せられているからです。
そうです、ラピス・ラズリにある金色のキラキラ、あれです!
この石は、エジプトではchesbetと呼ばれ、非常に珍重されていたそうです。
当時、ラピス・ラズリはエジプトに対する貢物や贈り物にたくさん含まれており、既にラピス・ラズリ鉱山も存在し、採取されていました。
ギリシャ・ローマ時代にも装飾用の石としてよく使われていたという事実から、最初の胸当てばかりでなく、のちの時代に作られたものにも、ラピス・ラズリがはめ込まれた可能性は高いと、クンツ博士は推察しています。
もちろん、‘金色のキラキラ’が「サファイアではない」という決定打になっているというところはありますが、その他「胸当ての素材として難しいのではないか」とクンツ博士は考えたようです。
と、いうのが、石の大きさにあります。
この「大祭司の胸当て」は、大きさが縦横約23cmの正方形と言われており、そこに金で縁取られた12種の宝石が「横4列×縦3列」という形で配列されていたのだそうです。
その計算でいくと、個々の石の大きさは「縦約5cm×横約7cm」ということになり、そして、それぞれの石には、イスラエルの12部族の名前が刻まれていたということでした。
実際に「際立って大きな美しい宝石が取り付けられている」という証言もあったのだそう。
そうなると、「そもそも、当時、そんな大きなサファイアが手に入ったのか?」
しかもサファイアは、ダイアモンドに次いで硬度が高い宝石であることから「そう易々と文字を彫れたのか?」という疑問をクンツ博士は持ったようです。
それは、貴重なルビーやエメラルドにも同じことが言え、また、当時のヘブライ人の懐事情から「そんな立派な宝石を調達できたはずがない」という見立てもあるそうです。
その他、12石に対しては、いろいろな疑問があるそうで、例えば4月生まれの人は嬉しい「ダイアモンド」ですが、「特別に貴重な石であるダイアモンドを使うと、部族間に差がつきすぎて争いの種になるだろうから、ダイアモンドの使用はなかったんじゃないか」と疑問視する声もあるのだそうです。
また、「トパーズ」という言葉が出てきたときも、「緑がかった色合い」という目撃談があり、やっぱりここでも「ペリドットじゃないの?」とする疑い持たれたり・・・。
なかなか、興味は尽きません。
と、長くなりましたが、結論―――。
「『ラピス・ラズリ』は、正真正銘、誕生石とするにふさわしい宝石ということが言える」だと思います!
以上、みちょるびんでした!
【参考文献】
「宝石 その美と科学」(1972年、近山晶著)
「宝石と鉱物の文化誌」(ジョージ・F・クンツ著、2011年、鏡リュウジ監訳)
「楽しい鉱物図鑑」(1992年、堀秀道著)