こんにちは、みちょるびんです。
「日本の誕生石」が63年ぶりに改定されました。宝石鑑別のディプロマを持つみちょるびんが、「誕生石」として選ばれた‘栄えある宝石’たちについて、独断と偏見を交えながらご紹介したいと思います!
「ガーネット(1&2)」「クリソベリル」「アメシスト」「アクアマリン」「モルガナイト」「サンゴ」「ブラッドストーン」「サードニクス」「ダイアモンド(1&2)」「タンザナイト」「アイオライト」「エメラルド」(「日本の国石」)「ヒスイ」「真珠」「ムーンストーン」「アレキサンドライト」「ルビー」「スフェーン」「スピネル」「ペリドット」「サファイア」「クンツァイト」「トルマリン」「オパール」に続く、第27弾!!
トパーズ&シトリン
赤い色の基準となる石はルビー、青い色はサファイア、緑色はサファイア。
それでは「黄色は?」というと11月の誕生石「トパーズ」なんです。
和名は、黄色い玉と書いて「黄玉」、黄色い宝石の代名詞となっています。
実際、古くから知られているトパーズは、何世紀もの間「黄色」と関連づけて考えられ、人々は「全ての黄色い宝石はトパーズ」で「トパーズは黄色である」だと思い込んできたそうです。
しかし、実際には、「トパーズ」には、レッド、ピンク、パープル、オレンジ、ブラウン、ブルー、グリーン、無色と、黄色以外にも色があります。
反対に、黄色の石も、トパーズ以外にたくさんあり、一説には、30種類以上あるとも言われています。
それにむしろ、今は‘トパーズは水色の石’という印象を持っていらっしゃる方も多いかもしれません。
宝石店には、良質のアクアマリンを連想させるような、クールなブルーのトパーズが多く並んでいますもんね。
実は、自然界で強いブルーを呈するトパーズは非常に稀で、1970年来、無色のトパーズを処理したことで生じた「ブルー・トパーズ」が、大量に市場に流通しているという現状があります。
なお、トパーズは、レッドとピンクは希少で高く評価されており、その中でも、ミディアム・レディッシュ・オレンジからオレンジ・レッドのものは「インペリアル・トパーズ」として知られています。
その色味は、極上のシェリー酒に例えられ、‘シェリーカラー’という言われ方をする場合もあります。
そもそも、トパーズは、他の石と混同されることが多い石として知られています。
8月の誕生石「ペリドット」のコーナーでも紹介しましたが、「トパーズ」の名前の起源として考えられているものに、ギリシャ語の‘探し求める’という意味の「トパゾス」(Topazos)とする説があります。
これは、「その鉱床がある『トパジオス』島が、深い霧に包まれていて、島を探すのが困難だったから」というところから来ているとされていました。
ただ、その島で実際に発掘されていたのは、「トパーズ」ではなく「ペリドット」だったという事実があります。
昔の人はきっと、「トパジオス」島で採れた、今でいうところの「ペリドット」を、本当に「トパーズ」と呼んでいたのだと思います。
それは、‘混同’とか‘間違い’とかいうことではなく。
それが、後世、現代人が決めた「化学組成」「結晶構造」によるルールから、「トパーズ」と「ペリドット」が区別され、「トパジオス島の産物はペリドットだった」と明らかにされた、それだけのことだと思います。
これがいいのか悪いのか・・・。
技術が発達するにしたがって、どんどん細密化されそうじゃないですか?
実際に、長い間褐色のペリドットだと思われていた石が、よく調べてみると別の新種で、「シンハライト」と命名されたという例もあるのだそうで。
石の種類は増えていく一方、石を専門にしている人は、覚えるのが大変です!
昔の人の黄色の判断基準に「黄緑色も含まれていたのかな?」と、そっちの方も気になりますけどね、みちょるびん的には。
「トパーズ」にも、グリーンを呈する石はありますし、「‘たまに黄緑色も混ざっている黄色の石’の、黄緑バージョンが’トパジオス’島でたくさんとれた」、そんなところかも知れません!?
さて、そんなトパーズ、今度は、黄色い色をしたクォーツ「シトリン」にその領域を脅かされています!
「シトリン」もトパーズと同じく10月の誕生石ですね♪
シトリンの和名はそのまま、黄色い水晶で「黄水晶」。
その黄色いシトリンが「シトリン・トパーズ」という名前で売りに出され、黄色の代名詞たる「トパーズ」の名を拝借しちゃっているものだから、今度は「‘シトリン’と‘トパーズ’が同一のもの」という混乱を生み出してしまっています・・・。
そうすると「トパーズ」は、「プレシャス・トパーズ」や「インペリアル・トパーズ」と銘打って、対抗せざるを得なくなる。
わざわざ「本家」が、‘こちらが正真正銘のトパーズである’ということをアピールしなければならない事態にまで発展しているわけです☆
フォールス・ネーム(見た目が似ている、別の宝石の名前を使った呼び名)が出回るのは、人気者の宿命ということなのでしょうね。
でもね、偽物呼ばわりされている「シトリン」だって、負けてはいませんよ。
実は、シトリンはシトリンで、自然界では‘稀な存在’と言われています。
なぜなら、市場に出ているシトリンのほとんどは、紫色のクォーツ「アメシスト」を熱処理により黄色に変えて作られたものだからです。
それは、鉱物標本の世界にも、同様のことが起こっているそうです。
「楽しい鉱物図鑑」の著者堀秀道氏によると、「天然の黄水晶は少なく、出回っているものはほとんどが、紫水晶を加熱して変色させてつくったものである」と説明されています。
そんな風にしてまで、多くの人に熱望される、かわいい黄色のクォーツ「シトリン」ですが、熱処理技術の産物として「アメトリン」と呼ばれる面白い石も、入手が可能となっています。
「アメトリン」は、トルマリンの「パーティ・カラー」みたいに、同じ結晶の中にアメシストとシトリンの両方の色を持つクォーツです。
天然にもありますが、鉱床は、ボリビア東部、ブラジルとの国境付近にあるアナイ鉱床の1つだけと言われています。
最後に。
「楽しい鉱物図鑑」の著者堀秀道氏によると、トパーズは「宝石とは別に、結晶鉱物標本として、鉱物中でも十指に入る魅力を持っている」のだそうです。
特に天然のインペリアル・トパーズの良品は少ないそうです。
シトリンも、天然ものは少ないそうですしね。
鉱物の標本なので、その鉱物結晶の特徴が顕著に現れたもの等が珍重されるのかなと、素人的には思いますが、こうやって堀秀道氏の話を聞いていると、美しい結晶は、宝石業界と鉱物業界の両方の間で争奪戦が繰り広げられていそうですね。
標本としての価値もあるし、カットすれば、素敵な宝石に生まれ変わるだろうし。
その辺のせめぎ合い、両者、難しそうです。
以上、みちょるびんでした!
【参考文献】
「宝石 その美と科学」(1972年、近山晶著)
「楽しい鉱物図鑑」(1992年、堀秀道著)