こんにちは、みちょるびんです。
【3回目の難(更に10日後の日記)】
午後の眠い会議を何とか終え、会議終了後、女子トイレに駆け込んだ。
次の行事であるレセプションまでに、2時間半の時間があったので、上司は一旦、職場に戻ると言うに違いないのだ。
だから、待たせちゃ悪いと思って、小走りでトイレに行ったのだった。
用を足して、いざ、手を洗おうとして、あるはずの‘ばあちゃん’の形見の指輪がないことに気づいた。
狐につままれた感じ。
さっきまで、会議中にはあったのだ。
指輪の付け心地が悪く感じられ、会議中に、親指など、何度か、別の指に着け替えたりしたのだった。
だから、会議室からトイレまでの間に落としたことになる。
私はあわてて会議室に戻った。
その部屋とトイレとは、さほど離れた距離ではなかったが、何度、その間を往復しても、見当たらなかった。
バッグの中も見たが、なし。
本当にヘン。
私は廊下のカーペットの上に、もう一つ別の指輪を置いてみたり、指から抜け落ちたことを想定して床に向かってちょっと投げたりしてみた。
しかし、指輪は、案外、遠くに転がって行ってしまうということはしなかったし、カーペットの上でも、十分その存在を見分けることができた。
そこに居合わせた同僚たち皆も、協力、探してくれたのに、出てこなかった。
いよいよ不安になった。
いやなことを考えた。
2度あることは3度ある・・・。
指輪までなくしてしまったら、2週間のうちに、立て続けに、3つもの大切なものをなくしたということになる・・・。
そうはなりたくなかった。
あまりにも気色悪すぎる。何か、目に見えない存在が怒っているのか?
2度あることは3度ある―――。
3度目の指輪は、一番なくしたくないものだった。
あの指輪は、私の父・パピーが、自分の母親である‘ばあちゃん’に、初月給で贈った特別なものだった。
その理由は、‘ばあちゃん’が、結婚指輪を持っていなかったから。
そして、‘ばあちゃん’が亡くなったとき、その「思い出の指輪」を形見として私が持つことを、妹も快諾してくれたのだった。
‘ぬいぐるみたん’と同じくらいに、なくしてはならないもの。
それが、今、ないのだ。
指輪を着けていたときの、指の感覚を思い出してみた。
もちろん覚えている。
私のところに来てからずっと、私が身に着けていたものだ。
私の元から去りたがるはずがないのに・・・。
しかも、今日は、‘ばあちゃん’の命日なのだ!
だんだんと、時間が経つほどに、絶望的な気持ちになっていった。
本当に、もう、なくしてしまったのではないか・・・。
一番、なくしてはならないもの。
妹にも、パピーにも申し訳がたたない―――。
私は、いよいよ、トイレで、誤って流してしまったのではないかと疑い始めた。
これだけ廊下を皆で探しても出てこないのだから。
私は、トイレに流したのでなければ、逆に、出てこないはずがないと思い、確認してみることにした。
つまり、シミュレーションし、どういう状況であれば、指輪を知らずにトイレに流してしまう可能性があるのか、について検証しようと思ったのだ。
つらい行為である。
結局、「流してしまった」と、諦めをつけるためにする検証になるのだから。
トイレットペーパーを指で引っ張ってみた。
会議中に、指輪を親指に着け替えてみたりしたが、あのまま親指につけたままであったのなら、トイレットペーパーに巻き込まれ、指からとれてしまってもおかしくないシチュエーションだった。
しかし、ペーパーにからまったとしても、堅さの違いから異物を感じてもよさそうである。
あまりにもぼんやりしていたせいか、指輪が小さかったから、気づかなっただけなのか・・・。
そう考えながら、また、くるくるトイレットペーパーを引っ張っていたら、ピョンと、何かが、着ていたジャケットの袖から飛び出してきた。
奇跡的に、右手でキャッチ。
指輪だった。
えーって、感じ。
信じられない。
でも、出てきたのだ。
私は、とにかくあわてて外の廊下に出て、皆に知らせた。
皆、喜んでくれた。
ありがとう。
協力してくれて、ありがとう。
そして、お騒がせし、すみませんでした。
それにしても、本当に不思議。
なぜ、袖から出てきたのか。
1時間くらい、捜索のため、うろうろしていたのに。
何故、指輪は、ずっと袖の中にとどまっていられたのか。
本当に不思議。
何はともあれ、帰ってきてくれてありがとう。
これは、‘ばあちゃん’に感謝すべきことなのか。
今日は、妹と会う予定はなかったのだが、指輪の件もあり、‘ばあちゃん’の命日でもあったので、急遽、レセプションが終ってから、妹と会うことにした。
レセプションでは、会議出席者に、「見つかったか?」と訊かれ、恥ずかしかった。
でも、良かったよ、本当に!!
以上、みちょるびんでした!