こんにちは、みちょるびんです。
(前回までのあらすじ)
入社して最初の数年は、一つの夢も実現し、何の疑問もなく、仕事に励んでいたみちょるびん。そんなある日、占いで「将来、商売を始める」「自分を抑制している」と告げられ、仕事に対し、違和感を感じ始めた。学生時代に熱中していた「演劇」に活路を見出し、カルチャースクールの演劇講座を受講。そこで出会ったつるさんに誘われ、新たにダンス教室に通うことになったのだが・・・。
【即興バトル、4日前の日記(後編)】
着替えを終え、「即席即興バトル」におけるソロ出演が決定した感覚派プロダンサーKさんは、気分がスッキリしたといった様子だった。
なぜなら、Kさんは、先週の時点では、オーディションを受けることすら迷っていたのだから。
その一方で、私は、ちっともスッキリしなかった。
それで、先生たちがいらっしゃる、いつものカフェに立ち寄り、そこにいたTくんに、もう一度、改めて問うてみた。
実際のところ、Tくん自身はどうしたいのか、Tくんの本音を。
Tくんは、「一緒に組んでは、お互いに個性を殺し合うだろう」と言った。
それがTくんの答え。
最初からわかっていたことだ。
私は、先生に、「即席即興バトル」参加の辞退を申し出た。
せっかくの機会であり、私自身、当日は、休暇まで取って楽しみにしていたことだった。
もちろん、簡単な決断ではない。
それに、私にとっては、’ソロ’で挑戦するよりかは、ただ調子を合わせればいいという観点からは、Tくんと一緒に組むことは、楽な選択であった。
しかし、1回目の先週のオーディションで、一番に、しかも、一発合格できたのはTくんだけだったし、仲の良いTくんのこれまでの苦労や努力を考えると、「一緒にやらせろ」とお願いするのは、Tくんに対し申し訳ないと思ったのだった。
ならば、出ない方がいい―――。
先生をはじめ、その場にいた皆は、とても驚いた様子だった。
よもや、私が辞退すると言い出すとは、思わなかっただろう。
すると先生は、「ダイちゃん・はっちゃんペアに加わるように」と言った。
ただ、そうなってくると、私は、自分がたらい回しにされている感じがいやだったし、’ほんわか、かわいい’イメージのダイちゃん・はっちゃんペアと自分では、’キャラ’も全然違うだろうと思って、その提案にもがっかりしたのだった。
先生は、「即興で踊るのだから、曲を知らなくてもいいだろう」とか言われたが、皆、自分の好きな曲で臨むわけで、「バトル」はトーナメント方式なわけで、出るからには、勝ちに行きたいし、ある程度準備したいではないか。
衣装のことだってあるし。
そもそも先生は、「観客から料金をいただくのだから、適当なことはできない」とおっしゃりながら、私に、安易に、「ダイちゃんペアに加われ」だなんて、矛盾しているじゃないか。
ダイちゃんは、心優しいので、「みちょるびんさんが出場しないと、皆、つまらないと思う」と言ってくれた。
私は、ダイちゃんの思いやりに感謝したが、終電の時間が迫っていたし、今、この1、2分の間に心の整理をして、決断することはできないと思った。
「とにかく、終電だから」と、足早にその場を立ち去った。
駅に向かいながら、気分は落ち込んでいた。
ダンス教室に来る前に寄ってきた妹んちのMDプレイヤーが壊れていて、十分に、踊りの練習ができなかったのは、ある意味、幸いだった。
それでも、何だか、バカバカしいというか、’合格’などと書かれたハチマキまで頭に巻いて、’哀れ’と言うか。
旅行帰りのキャリーバッグを引く手が、いつも以上に重く感じられた。
駅に着いた時は、もうすぐにでも電車が到着しておかしくない時間だった。
私はあわてて、自動券売機の投入口に300円を押し込んだ。
出て来た切符を、ひったくるようにして掴んで、改札に向かう時、釣銭が落ちてくる音が背後でしたが、構わずそのまま進んだ。
後で、財布の中を確認したところ、どうやら、100円玉と間違って、500円玉を券売機に投入していたようだった。
背後に聞いたじゃらじゃらの音は、私の釣銭だったようだ。
たかだか400円のロスとは言え、ますますみじめな気持ちになった。
家に帰って、気持ちが収まらず、妹に電話した。
妹からは、「生徒のくせして、先生の言う通りにすべきだったのだ」と怒られた。
それはわかっていたのだが、気持ちが割り切れないのだ。
プロのダンサーになるつもりはないくせに、プロの人たちに張り合い、悔しいという気持ちになる。
本当に、勝手なものである。
ダンス教室から帰って来る途中に、携帯電話のバッテリーが切れたので、家で充電していたところ、夜中の2時頃になって、先生から2回も伝言をもらっていたことに気づいた。
持ち時間の3分のうち、最初の1分間を、ダイちゃん・はっちゃんペアが踊り、その次の1分間を私が一人で踊り、最後、また三人で合せて踊ればいいという内容だった。
1分間は、私の好きなように踊っていいと。
ダイちゃんは、この提案を知っているのだろうか?
私はますます、恐縮した。
そうまで言われると、今度はかえって、私が一人、我がままを言って、駄駄をこねているように聞こえ、感じ悪い。
それに、たとえ1分間であったとしても、「ダイちゃん・はっちゃんの枠」なのだから、私がソロで踊るわけにはいかない。
そう、思った。
以上、みちょるびんでした!