こんにちは、みちょるびんです。
「日本の誕生石」が63年ぶりに改定されました。宝石鑑別のディプロマを持つみちょるびんが、「誕生石」として選ばれた‘栄えある宝石’たちについて、独断と偏見を交えながらご紹介したいと思います!
「ガーネット(1&2)」「クリソベリル」「アメシスト」「アクアマリン」「モルガナイト」「サンゴ」「ブラッドストーン」「サードニクス」「ダイアモンド(1&2)」「タンザナイト」「アイオライト」「エメラルド」(「日本の国石」)「ヒスイ」に続く、第16弾!!
真珠
古来、日本では、真珠は日本の重要な輸出品だったと言われており、貢物として中国にも贈ったという記録があるそうです。
また、「古事記」「日本書紀」「万葉集」でも、‘白玉’として、多くの古典や伝説に登場しているとのこと。
他方で、日本の考古遺物では、真珠に関係するものは、ごくわずかなのだそうです。
例えば、1979年に太安萬呂の墳墓から4点のアコヤ真珠が発見されていますが、火葬された遺体の埋葬時に添えられたものという見解が示されているそうです。
また、明治40年頃に発見された東大寺金堂鎮壇具の中に、水晶、琥珀、ガラス玉、太刀、鏡とともに、真珠が含まれていたことがわかりました。
これらは、真珠が珍重されていたことの証ではありますが、装身具として用いられたことを示しているものではありません。
真珠が装身具として利用されてこなかったということは、世界的に見ても日本は特殊なのだそうで、その理由として、我が国が、装身具を不要とした着物文化のせいだからではないかという説もあるようです。
しかしそれは、真珠の着用に限ったことではなく、そもそも、日本女性と馴染みの深い櫛やかんざしですら、西洋との交流が始まる安土桃山時代までなかったと言われています。
その後、髪飾りは18世紀に入ってから飛躍的に発展していき、例えば、江戸の後期には、玉かんざしに「サンゴ」が用いられ、大流行しましたが、そんな中にあっても、真珠は(江戸期全般を通じても)髪飾りに使われることはなかったのだそうです。
江戸中期の真珠について書かれている記述があります。
真珠について「和漢三才図解」(巻第47介貝部)は次のように記す。真珠はアワビの玉を最上とするけれどもこれはほとんど入手できない。真珠にはアコヤ貝から出る「伊勢真珠」とアサリ貝から出る「尾張真珠」がある。九州の大村からもアコヤ真珠が採れる。アコヤ真珠は光沢があるが尾張真珠にはそれがない。両方とも小さなものは薬用とする。
「詳説 日本の宝飾文化史」(2019年、露木宏著)
(個人的に、「アサリ貝」という点に、驚きを隠せませんが)実際に、伊勢志摩と並んで天然真珠の産地として知られていた長崎県の大村では、真珠で万能薬や目薬を調合しており、それが大変珍重されていたそうです。
一方、お話変わって、世界では、何千年にもわたって、富と地位の象徴として、天然真珠が求められていました。
真珠の採取に関する記録は古くからあり、古代ローマのプリニウスが書いた「博物誌」もその一つですが、プリニウスは、その書の中で、真珠の産地を挙げるとともに、ペルシャ湾の真珠を第一に評価しているそうです。
しかし、プリニウスは、実際にはペルシャ湾を訪れたわけではなく、つまりは、遠い地方の真珠採りを話題にするほど、当時の人々は真珠に深い関心を寄せていたことを物語っているのでした。
ヨーロッパでは18世紀以来、真珠の形成に関する研究が行われ、養殖の実験を試みる学者もいたほど盛んだったそうですが、組織的な産業としての真珠養殖は、日本で実現することになります。
後の「ミキモト」の創設者となる御木本幸吉が、真珠が水産物として有望であることを見通し、真珠養殖に着手したことに始まります。
さて、「宝石」と呼ばれるもののほとんどは「鉱物」からできていますが、真珠は、サンゴと同じように、生物を由来とした有機質のものです。
鉱物は地中から発掘するなどを行うし、サンゴなどは漁を行うことで採取しています。
そう考えると、養殖真珠は特異です。
なぜなら、人間の手によって、真珠の母体となる生物を育成し、その生物に宝石を育ませ、最終的に、生物が生み出したその宝石を体内から採取するんですから!
確かに、海に潜って、真珠を宿しているかどうかわからない天然の貝を採ってくるという原始的な方法よりは、効率はいいのかも知れません。
しかし、相手にしているのは生き物です。
病気になることだってあるし、自然災害に見舞われることだってあります。
事実、1998年に、全国のアコヤ貝が原因不明の病に襲われ、75%もの貝が亡率したという不運もあったのです。
日本が養殖するアコヤ貝の場合だと、人工採苗から数えると、真珠の採取まで、実に4年の年月がかかると言われています。
気の遠くなる話ではありませんか?
もちろん、採掘されるダイアモンドも、鉱脈に含まれるダイヤモンドの確率は、2000万分の1と言われており、そしてまた、採取されたダイアモンドのうち、宝石として使用されるのは、10~20%と言われているほどなので、こちらだって気が遠くなりそうな、大変な作業ではあるのですが。
あいにく、天然真珠の市場は、1900年以降、様々な理由で、衰退しました。
その主な原因に、真珠養殖技術の発展が挙げられることは確かです。
しかし、一方、その養殖真珠のおかげで、庶民である私たちにも、安定的に、手頃な養殖真珠のジュエリーが手に入ることができるようになったという恩恵に預かることができているのです。
真珠の装着に無頓着だった日本で、真珠養殖が成功し、発展したというのは、本当に、面白いことだと思います。
そして、養殖真珠は、今や、我が国では貴重な特産宝石の1つに数えられることになったのです!
最後に、真珠は、あの柔らかな「オリエント」と呼ばれる独特な輝きが特徴的ですが、実は、あの真珠層を持たない真珠もあるということをご紹介します。
カリブ海に生息する巻貝の女王「ピンクガイ」の「コンクパール」と、東南アジア等に生息する「メロガイ」の「メロパール」です。
初めて見たときは、みちょるびんも衝撃を受けましたが、とても美しい真珠です。
ピンクガイも、みちょるびんが憧れる宝石の一つです!!
以上、みちょるびんでした!
【参考文献】
「『パール』展 その輝きの全て」(2005年、国立科学博物館)
「真珠博物館 人と真珠-そのかかわりを考える」(1990年、㈱御木本真珠島)
「宝石 その美と科学」(1972年、近山晶著)
「詳説 日本の宝飾文化史」(2019年、露木宏著)