こんにちは、みちょるびんです。
(前回までのあらすじ)
入社して最初の数年は、一つの夢も実現し、何の疑問もなく、仕事に励んでいたみちょるびん。そんなある日、占いで「将来、商売を始める」「自分を抑制している」と告げられ、仕事に対し、違和感を感じ始めた。学生時代に熱中していた「演劇」に活路を見出し、カルチャースクールの演劇講座を受講。そこで出会ったつるさんに誘われ、新たにダンス教室に通うことになったのだが・・・。
【ある日の日記】
ダンスライブを観に行った帰り、ダンス仲間の数人で、飲みに寄った。
仲間の一人の行きつけというお店で、もう少し、ゆっくりしていたかったが、終電になりそうだったので、私だけ、先に退席した。
残念。
仲間が連れていた友人という人は、ロックミュージックをやっているのだそうで、ロックを始めると、普段とは別人のようになるらしい。
「人生を楽しんでいる」と、皆が、そのロックの人のことを話していた。
私は、少し、彼に嫉妬した。
今の私は、こんなに苦しい状況の中にいて、自分を取り巻く人間関係がうまくいっていないわけで。
いつもそれが、心に影を落としていて、心からリラックスして楽しむことができない。
その、ある1点のために。
私だって、人生を楽しんでいたはずなのに・・・。
帰りの電車の中、偶然同じ駅から乗車して、私の隣に立った若い男が、嘔吐した。
途中で、急にしゃがみ込んだと思ったら、ぶはっと。
彼の前に腰かけていて、席を譲ろうとしていた女性のスカートにも少しかかっていた。
飲んでいたのか、液体がスーッと電車の床を流れて行った。
私は、靴を汚したくなかったし、気持ちが悪かったので、素早く反対側のつり革に移動した。
そっと、後ろを振り返ると、親切な女の人が、彼にティッシュを差し出していた。
またしばらくしてから見てみると、今度は、彼は、流れた床の上の液体を、少ないティッシュで拭き取ろうとしていた。
具合が悪いのだろうに、じっと座席に座っていればいいものを。
3メートルくらいに広がったものを拭いており、彼のことが、気の毒に思えた。
それで私は、ティッシュを取り出そうと、一旦、バッグの中を探したのだが、やめた。
何て言って、彼にティッシュを差し出せばいいのか、わからなかったのだ。
「そんなことはいいから、座っとけ」と声をかけたい気持ちがあった。
しかし、公共の場で、迷惑をかけたという自責の念で、彼は自分の始末をしていたのだろうし、私の独断でその行為をやめさせていいものか、他の乗客はどう思っているのか、いろいろ考えてしまったのだ。
それに、このタイミングでティッシュを渡すのは、逆に、彼の行為を推奨することになるような気がした。
幸い、すぐに、自宅の最寄り駅に電車が到着し、私は、電車を降りた。
だが、とてもいやな気分だった。
彼が、そのまま席におとなしく座っていれば、ここまで落ち込まずにすんだだろう。
彼の姿がとても哀れで、それに対し、自分がとても薄情に思えたのだ。
でも、どうすることもできなかった。
私は、ふと、学生の時のことを思い出した。
クラスメイトが粗相してしまい、泣いているその子を思いやって、騒がず、静かに、何人かの女子が雑巾で床を掃除したのだ。
私は、あのときも、何もできなかった―――。
以上、みちょるびんでした!