こんにちは、みちょるびんです。
1.桃太郎、その人
その青年は、名を桃太郎と言った。
幼少の頃より、不思議な力があり、動物と意思の疎通をはかることができた。どうやらそれは、自分だけの特殊な能力のようだと気づき、ヒトに気味悪がられるので、子供時代にその力を封印した。
桃太郎は、その奇妙な名前であるが故、周囲にからかわれ、いじめられた。その不思議な能力のこともあり、いつしか桃太郎は、外の世界に心を閉ざし、独りを好むようになっていた。
2.出生の秘密
そんなある日、桃太郎は、育ての親であるおじいさんとおばあさんに呼ばれた。
おばあさんによると、昨晩、みちょるびんと名乗る仙人が夢に現れ、お告げがあったという。仙人は「いよいよ、その時が来た。桃太郎にこの3つの巻物の中から、1つを選択させよ」と言い残し、姿を消したのだそう。翌朝、目覚めたおばあさんの枕元には、不思議なことに、夢で見たものと同じ3つの巻物が残されていたということであった。
おばあさんは、そして更に、桃太郎の不思議な出生の秘密を語り出した。両親は、桃太郎が幼い頃に他界したと聞かされていたが、実は、桃太郎には、両親というものは初めからなく、桃から生まれたということであった。
むかし、おばあさんが川に洗濯に行った際、「どんぶらこっこ、ぎぃこっこ」と、その存在をアピールするかのように派手な音を立てながら、川の上流から大きな桃が流れてきたという。おばあさんは、あまりに立派でおいしそうな桃だったので、おじいさんと食べようと思い、間一髪、激流の中からその桃をすくいあげ、家に持ち帰ったのだそうだ。そしていざ、桃を切り分けようと、ランダムに包丁を切り込んでいったところ、中から、元気な男の子が出てきた、それが、桃太郎であったというのだ。
にわかには、信じがたい話しではあるが、桃太郎には、腑に落ちるところがあった。桃太郎はこれまで、自分の名前にもある「桃」のことが無性に気になり、なぜか、懐かしく感じることすらあった。だが、桃が好物というわけではなく、決して口にしたいとは思わなかった。また、自分にだけしかないあの特殊な能力が、この稀有な出生と何か深い関わり合いがあるようにも感じられ、不思議な気がした。
急に黙り込んでしまった桃太郎を心配し、おばあさんは、「本来、桃太郎は強運の持ち主であるに違いない。守られた存在なのだから、自信を持て」と励ました。
おばあさんによると、当時、おじいさんは、包丁を研ぐのが趣味で、そのときに使っていたものは、切れ味がかなり鋭かったそうなのだ。だから、包丁の、その鋭い刃を避けるようにして、桃太郎が無傷で誕生したことは、本当に奇跡的なのだと語った。そしてそれこそが、強運の証ということであった。
どういう’いきさつ’で桃太郎が桃の中に入り込んでいたのか、密閉された空間でも空気は十分に補給されていたのか、なぜ、川を下っていたのか、桃は果たして一つだけだったのか、など、謎は多いが、とにかく、それが真実として、桃太郎に伝えられた。
3.3つの巻物
おばあさんは、いよいよ、3つの巻物を桃太郎の前に差し出した。
そこには、「一」、「二」、「三」という文字が書かれていた。そして、仙人の教えのとおり、桃太郎に目を閉じさせ、浮かんできた数字を手掛かりに、この3つの巻物の中から、ピンとくるものを一つだけ選択するよう促した。桃太郎は、「一」という数字にピンときたが、自分の名前とも縁の深い‘桃の節句=3月3日’の‘3’という数字が好きだったので、つい、「三」を選択してしまった。その巻物「三」には、次のようなことが書かれていた。
「商売繁盛」。
それを聞いた瞬間、おばあさんは、歓喜した。
おばあさんの作るきび団子は味もよく、食べる者を元気にすると評判で、最近ではその噂を聞きつけ、おばあさんのきび団子を求め、遠路はるばる訪れる者が続出していた。そのため、‘きび団子屋’を起業するという話が持ち上がっていたのだ。
このお告げは、きび団子屋の成功を意味し、桃太郎もそれに従事することになるであろうことが想像された。
しかし、当の桃太郎は、何かしっくり来ていない様子で、再び黙り込んでしまった。そして、おもむろに、実は、ピンと来たのは、「一」であったのだと告白し、改めて「一」の巻物の紐を解くこととなった。
そこに現れた文字は、「雲蒸竜変」。
意味がわからず桃太郎とおばあさんが首をかしげていたところ、それまで沈黙を守っていたおじいさんが、ついに口を開いた。
博学のおじいさんの解説によると、‘うんじょうりょうへん’と読み、その意味は、「‘竜は雲が湧きおきた時に勢いを増す’ので、転じて、‘勇者が時機を得て、存分な活躍をみせること’」ということであった。
「勇者」、「活躍」、このキーワードは、桃太郎を大いに奮い立たせた。そのお告げで、瞬時に自分の心が真に求めていたものを理解したのだ。ここ数年、村人を苦しめてきた鬼ヶ島の鬼退治という命運である。
4.急展開
それからというもの、桃太郎の周囲は一変した。
おばあさんは、改良に改良を重ね、よりパワーアップした‘きび団子’を編み出した。
そして、桃太郎は、封印していたあの不思議な力を解禁し、自分の手下になってくれそうな動物との接触をはかった。あともう一歩のところで協力を渋っていた犬と猿とキジを、おばあさんの不思議なきび団子で手なずけることに成功し、仲間に引き入れることができた。
おじいさんも尽力し、鬼ヶ島に渡るための舟を無償で貸してくれる協力者を探し出した。
そんな桃太郎を応援し、村の女たちは、「風水」を駆使して、‘運気を活性化する’という赤色を基調としたデザインの羽織を手縫いした。また、’日本一’と記した桃のアップリケをあしらった‘のぼり旗’を手製した。
男たちは、「気学」の知識を総動員して、鬼ヶ島の方角が大吉となる日を割り出し、奇襲の日を決めた。
そのあとの桃太郎の活躍は、広く出版された絵本などで知ることができるので、ここでは割愛する。
5.おばあさん、その人
この物語は、桃太郎の武勇伝として、世に広まったが、実はその立役者は、おばあさんであり、裏で糸を引いて桃太郎を操り、自分は一切の危険を冒さずに財宝を手に入れ、その後の余生を安泰なものにした、という別の言い伝えも残されている。事実、その後、おばあさんがアクセクときび団子屋を営んだという伝承はなく、桃太郎伝説の始まりとなる、‘不思議な桃を川で拾ってきた’というのも、おばあさんその人であったのだ。全ては、おばあさんが仕組んだことで、おばあさんが、何か妖術らしきものを習得していたのではないかとみる民族学者もいる。
6.ロード・オブ・ザ・三択リーディング
さて、あの不思議な仙人、みちょるびんがもたらした3つの巻物を読む手法は、その後、遠く海を渡り、南蛮に持ち込まれた。南蛮では、日常使いがしづらいと、巻物は手の平に収まるくらいの絵札に変わり、その絵柄やそれが持つ意味も多種多様となっていった。そして、数百年の時を経て、再び、黄金の国ジパングに持ち込まれ、三択リーディングとして復活を遂げることになったのだった。
めでたし、めでたし。
7.あとがき
おとぎ話の桃太郎が、どんなお話しであったか、記憶があいまいであったので、あとから、ネットで調べてみました。てっきり、鬼ヶ島は、村のすぐ近くに位置し、鬼が頻繁に村に上陸してきては悪さをし、村人も迷惑しているのだと思っていたのですが、鬼ヶ島の場所は、実は、外国だったんですねぇ。桃太郎が掲げたのぼり旗には、「日本一」と書かれているというイメージがありましたが、桃太郎が外国にまで乗り込んでいったことを考えると、’祖国、日本’を意識してのことだったのでしょう。我こそは「日本一」と宣伝したくなるのもうなずけます。
それにしても、おじいさんとおばあさんの元に戻ってきた桃太郎は、その後、鬼によって奪われていたたくさんの財宝を、律儀に持ち主たちに返したそうで、なんとも心温まるお話しです。持ち主も、きっと外国人だから、桃太郎はまた、返却のために、外国に出かけて行ったということなんですね。超グローバル!
そんな感動的な結末があったとは、露とも知らず、「桃太郎外伝」では、強欲なおばあさんといった展開にしてしまいました。
岡山県のみなさん、ごめんなさーい!!
以上、みちょるびんでした!