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シェリー・トパーズ

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 こんにちは、みちょるびんです。

【シェリー・トパーズ】

 彼女との出会いは、あのオープンカフェだった。

 彼女は、いつも特定のテラス席にいて、そこが彼女のお気に入りの場所のようだった。そして、彼女は決まってハーブティーを飲んでいた。

 彼女は、透明のグラスに注がれた、そのオレンジ色のハーブティーを光にかざして、テーブルの上にこぼれた、揺れる光を眺めては楽しんでいるようだった。
 そして、ハーブティーを口に運んでは、カップの中をしばらく見つめていた。

 そこにたたずむ彼女は、どこかはかなげで、どこか違う世界の住人のように感じられ、不思議だった。

 ある時私は、勇気を出して彼女に声をかけた。

 薄い茶色い瞳が一瞬驚いたように大きくなり、私をまっすぐに見つめた。

 「こうやって、カップの中を覗いていると、まるで、世界がシェリー・トパーズに閉じ込められたみたい。とてもきれいで、心が落ち着くの。」

 私も、彼女に勧められて、長たらしいその横文字のハーブティーを注文し、一緒にハーブティーから透けて見える世界を眺めてみた。
 ハーブティーの向こうでほほ笑む彼女は、ますます妖艶で美しかった。

 彼女は、バッグの中から、小さいものを取り出し、大切そうに、手のひらで包んだ。

 「‘シェリー’が、あなたのことを好きだと言っているわ。」

 そう言って、彼女が開いて見せてくれた手の中には、まるで上等なシェリー酒を連想させるような、赤みの強いオレンジ色をした透明石があった。

 「インペリア・トパーズっていう石なの。」

 彼女は、その石のことを‘シェリー’と呼んでいるようだった。

 シェリー色をしているから、シェリー・トパーズ。
 ちょうど、ハーブティーと同じ色をしていた。

 それから私は、彼女の部屋を訪ねるようになった。

 彼女の両親は、すでに他界しており、彼女は一人で暮らしていた。
 ジュエリー・デザイナーなのだと彼女は言ったが、彼女がデザインしている姿は一度も見たことがなかった。

 部屋にいるときの彼女は、いつもシェリー・トパーズを眺めていた。カフェでのときと同じように、石を光にかざしては、その世界に見入っていた。

 彼女はいつしか、お気に入りだったカフェにも出かけなくなり、シェリー・トパーズと過ごす時間が長くなっていった。

 彼女は、決まってこう言った。

 「シェリーがね、私を選んでくれたの。シェリーの世界には、悲しみも苦しみもないの。」

 そのシェリー・トパーズだけが、彼女の孤独を埋められる、世界で唯一の存在のようなもの言いだった。

 私は、シェリーに嫉妬した。
 そして、彼女に会うのをやめた。

 ある日、街で、彼女の声を聞いたような気がした。
 彼女が寂しさに押しつぶされそうになり、私を求めているのかもしれない、そう思った。

 私は、いてもたってもいられなくなり、しばらくぶりに、彼女のもとを訪れた。

 しかし、彼女の姿はどこにもなかった。
 そこに残されていたのは、彼女があれだけ大切にしていたシェリー・トパーズだけだった。

 私は、かつて彼女がしていたように、シェリーを光にかざしてみた。

 キラキラと石の中で光が反射した。

 それはまるで、彼女が笑っているかのようだった。

                       以上、みちょるびんでした!

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